2008年9月15日月曜日

【秩父鉄道PETIT撮影記事】Nikon F2を持って鉄道撮影に行くという「ゆめを叶えた」



■F3の時代の少年はどういうわけかF2がほしいと思っていた
「ゆめを叶える」とは大げさな言い草だ。だが、よく考えてみると長年願ってきたことをしたわけで、やっぱり「ゆめが叶った」わけか。

少年時代の私はニコンF2を使ってみたかった。不思議なもので、私の少年時代はすでにF3の時代であり、周囲にF2を持っていた人物も特にいない。それなのにどういうわけか、憧れていたのはF3ではない。きっと、現役で使えるのに見た目がクラシックなところに惹かれていたのだろう。「少し古いものが好き」という好みはそのころからすでに自分にはあった。

■頑固な鉄道少年の求めるカメラとは
何度も書いているが、少年時代は鉄道少年だった。高校生になるころまでに何度も秩父鉄道を写しに出かけていた。コダクローム64プロをなんとか2本か3本持って、お昼代までは捻出できないので、作ってもらったお弁当を抱え出かけていた。

当時のカメラは父のお下がりのコニカFPと、コニカを壊してからは、買ってもらったニコンF-301。このF-301はワインダー内蔵だった。もっともニコンには「ワインダー」という言葉はない。プログラム露出のあるカメラで、いま思えば、なかなかいいファインダーのついたカメラだった。

でも、そんな善し悪しは少年時代の私にはわからない。

ただ、当時の私のカメラに対する価値観には、以下の信条が強固に刻まれていた。「マニュアル露出でなければ信用できない」「オートフォーカス(AF)はあてにならない」「ズームレンズは画質が悪いから使えない」「コダクローム64でなければ退色しやすくてだめだ」と。なにしろ、当時の鉄道雑誌でプロ写真家が書くカメラ記事にはそうあったのだから。いま思えばそれは、彼ら自身の業務に対する体制を説いているわけで、アマチュアに推奨すべきとも思えないのだが。

■いまでも鉄道ファンのカメラ装備は超保守的に見える
ともあれいまでも、鉄道ファンのカメラ装備は超コンサバな人が多い気がする。コンデジ派とフィルム一眼レフ派が多くて、線路際で見るデジタル一眼レフ使いの人はどちらかというと、2008年当時は鉄道をおもに撮るではなかった気がする。ガチの鉄の人は、いまでもペンタックスLXとFAサンニッパ、あるいは645か67の人が多いように見える。他人の機材の話はどうでもよろしい。

いまは普通にデジタル一眼レフにAFズームレンズをお使いになっている広※尚敬氏やその弟子の井※弘和氏。あるいは諸※久氏や伊※久巳氏。その他専業写真家ではない鉄道雑誌執筆陣の超コンサバな志向を真に受け育った私だ。じつはいまでも「マジ撮り」なときには、上記4点のうち3つを信奉している男でもある。コダクロームはないから仕方ない。鉄道以外を撮る時だってもちろん同じだ。


■デジタル一眼レフになってから位相差AFとAFズームレンズを使い始めた保守反動の私だ
したがって、世間がαショックからデジタル一眼レフ黎明期にかけて「位相差AF」「動体予測」「多点測距」「視線入力」「アイセンサー」「パワーズーム」などと技術革新の恩恵をうけていたなか、ニコンF4を親に買わせたくせにAFとズームレンズに関しては、1980年代の人のままの知識で21世紀の幕開けを迎えた男なのだった。いまでもまだ「3D-トラッキング」とか「ターゲット追尾AF」などというものがうらやましいぞ! ちょっと信用していないところがあって、自分でAFポイントを設定する位相差AFしか使わないのだけどさ。

本格的にAFズームレンズを使うようになったのは、デジタル一眼レフを使うようになってからだ。「どうせ自動化するなら徹底したい」と考えたからだ。さらに、当時のデジタル一眼レフの高額ファインダーは倍率が低くて見にくいうえに、ニコンマウント機ではマニュアルフォーカスレンズの露出計連動が上位機種以外では行えず、AFズームレンズではないとほとんど使い物にならなかったから。



■デジタル一眼レフを置いてF2にフィルムをつめた
さて、そんな少年時代の「ニコンF2で秩父鉄道を撮りたい」という「ゆめ」はF2を主有した段階で忘れてしまっていた。それが、秩父鉄道の蒸気機関車を子どもに見せにいった今日はひさびさにF2を持ち、カメラにはベルビア50を入れ、レンズは35、50、135ミリの単焦点だけを持ち、モータードライブも装備して出かけるという、思いがけずに「少年時代にしたかったこと」を行なっていたわけで、ゆめがようやく叶ったと実感することができた。

自分が子どもだったころとちがうのは、自分一人で何時間も黙って歩いて一日中鉄道の撮影をしているのではなく、自分の子どもを連れていること。むしろ、子どもの気分にあわせて行程を決め、運がよければ撮影できるというぐらいで、けっして「撮影旅行」にはなかなかならないこと。そして、まあそれでもいいやあ、という気持ちでいまはいる。

自分が喜ぶのもいいけれど、自分の連れを喜ばせる楽しさというのは、少年時代には想像がつかなかった。今日の収穫はむしろそういう自分の気持ちを知ったことだろうか。

【撮影データ】
Nikon F2 Photomic A/AI Nikkor 35mm f/1.4S, AI Nikkor 50mm f/1.4S/RVP 50